アメリカで普及している高齢者住「CCRC」は、シニアが安心して暮らせるコミュニティ(住まい)のこと。日本でも国を挙げてCCRCを実現させるための取り組み『生涯活躍のまち』構想が始まっています。

 

CCRCは健康長寿をかなえるシステム


CCRC (Continuing Care Retirement Community/高齢者健康コミュニティ)とは、
高齢者が自立しているときから介護や医療が必要になるときまで、継続的に生活支援や、生きがいサービス、ケアサービスなどを受けて自立した生活をできるだけ長くするための共同体
のことです。

 

アメリカでは、全米におよそ2千カ所のCCRCがあり、そこではおよそ80万人の後期高齢者が、人生を楽しみながら医療・介護の心配のない環境で暮らしています。

 

こうしたCCRCを実現させるための鍵は
・「本人の意思の尊重」
・「暮らし慣れた生活の継続やケアの保障」
・「今ある身体機能を活用した自立支援」
などの
『経営理念』が何より重要であることはお話ししました。
そして、その「理念」に次いでたいせつなことが、それを実現・維持するための、『経営システム』です。

 

社会の経済危機にもゆるがない経営の仕組みとは


最近、居酒屋チェーンから介護事業に進出したものの、本業の経営悪化と介護報酬制度の改変により、高齢者住宅を含むすべての介護事業を他社へ売り渡した企業が話題になっています。入居された方々にとっては、「この経営者が運営するなら安心だろう」という思いで入居したのに、経営者が変わるということは、多くの不安が生じることになります。

 

そこで、CCRCの経営が安定するためには、次の3つが重要です。すなわち、入居者中心の経営を基礎に、
①経営の安定性
②公正性
③中立性
をいかに作り上げるかです。

 

米国のCCRCは、ほとんどが非営利法人組織(NPO: Nonprofit Organization)によって運営されています。つまり、入居者が評議員に入って経営を管理する「NPO組織」から成り立っているのです。そして経営が、開発者と運営者から分離・独立しており、入居者の資産である高齢者住宅が、経済危機から守られる仕組みになっています。ですから経営主体が変わることがありません。

 

2009年のリーマンショックは、歴史的な経済危機でした。このとき、経営悪化のために倒産・会社再生法を受けた開発事業者はありましたが、CCRC自体は影響を受けず、安定していました。

 

私がCCRCについて多くのことを学んでいるエリクソン社も、リーマンショックで経営破たんした銀行等の影響を受け、開発中のCCRCは資金の調達ができなくなり、会社再生法を受けました。しかし開発の終わったエリクソンCCRCは、既に入居者中心の法人組織となっていたので、全く影響を受けませんでした。

 

ちなみに開発中のCCRCについては、「メリーランド州で人材会社を経営している友人がすぐに資金調達を担ってくれ、半年余りで元の状態に戻った。」とのことでした。これは既存のCCRCの運営が健全に推移している証と考えられます。

 

今回の視察ではCCRCを6カ所訪問し、そのうちエリクソン社が運営している3つのCCRC「グリーンスプリング」・「チャールズタウン」・「ライダーウッド」は、エリクソン会長自らが案内してくれました。エリクソン会長はスマートフォンのデータを見ながら、入居率、スタッフ数、共用スペースの運営状況等を説明してくれました。そのスマートフォンでは、エリクソン社が運営するCCRCの経営指標など、すべてのデータにアクセスできるということでした。日本の高齢者事業でもICT技術(※)をさらに活用し、経営効率を高めていく必要性を感じました。

 

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今回訪問した6つのCCRCについて、表にまとめました。経営主体については、5つのCCRCでNPOが担っており、ジェファーソンのみ入居者の管理組合が主体となっています。運営については、アズベリーのみが同じNPOが行ない、残りの5つは民間会社が担っていました。

 

米国のように安心できるCCRCを日本で構築するためには、日本の法律や制度の中で、どのような仕組みを作ればいいのか、さらに研究を進めていく必要があります。次号では、それらを考慮した日本版CCRCの経営安定モデルについて、お話ししたいと思います。

 

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※雑誌ゴールデンライフへの執筆記事から。