高齢化問題が深刻化する日本。高齢者ができる限り自立して、最期まで住み慣れた住まいで暮らし続けることが重要になっています。しかしわが国では、このシステムはほとんど整備されていません。そこで今回は、アメリカで普及している終の住処の理想モデルCCRC」を紹介します。

 

「CCRC」で自立と尊厳のある暮らし


つれあいに先立たれて毎日の生活が不安不便になった、足腰が悪くなり段差の多い自宅で は転倒骨折するのが心配、もの忘れが増えて認知症になるのが不安、といったご高齢者が近年増えています。

 

しかしわが国では、必要なサービスを受けながら自立できる住まいのシステムがありません。そのため病気や障がいをもつようになると、住み慣れた地域を離れて病院や施 設で暮らすことになります。

 

高齢者が病院や施設に入院・入所することによってトランスファーショックが起こることが知られています。これは「適応能力が低下 した高齢者の生活環境が大きく変化すると、精神的な落ち込みが起こる現象」で、活動が低下して認知症が進行したり、孤独に苛まれて悲しむことになったりします。

 

アメリカには、体力や記憶力が衰えていく高齢者に対し、同じ場所で最期まで継続したケアが提供できる「CCRC (Continuing Care Retirement Community)」というシステムがあります。CCRCを直訳すると、「継続した 生活支援・健康支援・医療・介護サービスを提供する高齢者の生活共同体」となります。つまり「高齢者健康コミュニティ」のこと。

 

これは高齢者の自立と尊厳を守りながら継続したケアを提供することを重要な運営方針として、予防・ 医療・介護サービスを提供し、高齢者が自立して健康に、楽しく快適に暮らせる「自立型住まい」を中心とした総合的なサービスを提供するシステムです。

 

アメリカでなぜ普及しているのか


CCRCはアメリカで普及しており、2007年の時点で全米に1861ヶ所、74万5千人が 居住していると報告されています。広いキャンパスに住宅や各種サービス施設が点在する郊外 型から、市街地のビルの中にある都市型まで、さまざまな形態があります。

 

CCRCには「自立型」、「支援型」、「介護型」 の3種類の住まいがあります(図1)。それぞれの住まいは、尊厳の違守、自立支援を日標に設計されています。高齢者が老化していくニーズ に応じて、認知症予防、医療サービス、生活・ 介護支援などを総合的に提供しています(図2)。 すなわち入居者は、自立して生活できる段階から、特別な看護・介護サービスが必要な段階、そして人生の終末までを、同じコミュニティ内で生活できることになります。

 

一般にCCRCの費用は一時金と月利用料の組み合わせで支払いますが、一時金は住み慣れた家を売却して、その資金を充てることが多いようです。そして退去後は、入居一時金が返還されるなどの多様なプランが整っております。

 

高齢者にとって、長期にわたるケア費用の予測 が難しいなか、老後資産や収入の範囲で生涯終身の住宅・医療・介護の費用を包括的にカバーしてくれる選択肢として、CCRCはアメリカで注目を浴び、成長しています。CCRCに入居する時点の平均年齢は、「自立型」が79歳、「支援型」が85歳、「介護型」が84歳となっており、自立型住まいには79~85歳までのおよそ7年間生活するのが平均的な姿となっています。

 

わが国は、これから団塊の世代が後期高齢者となる2025年を目標に、地域包括ケアシステムの構築を医療・介護・福祉が一体となって 実現していくことを日指しています。一方、それを実現するための医療・介護資源と財政資源 は限られており、それらをいかに効果的、効率的に活用していくかが大きな課題となっています。老化につれて変化していく高齢者のニーズに対して、尊厳を守り最期まで自立支援する様々なサービスを提供する仕組みを持つCCR Cモデルは、日本でも高齢者の生活と人生の質向上に大きく貢献することでしょう。

 

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※雑誌ゴールデンライフへの執筆記事から。