全国で取り組みが始まっている「日本版CCRC」ですが、いまだモデルとなるような事例は生まれていません。今月は米国CCRCに入居を決めたKさんの事例を通してCCRCでの暮らしを紹介しながら、日本版CCRC実現のための課題を総括します

 

自立から要介護まで親しい人と共に生きるCCRC


米国には身体や認知機能が衰えていくシニアに対し、自立支援をしながら同じ場所で最後まで継続したケアを提供できる「CCRC(Continuing Care Retirement Community)」という「自立型住宅」を中心とした総合的な施設が普及しています。

 

一方の我が国では、地方創世の施策の1つとして米国CCRCを基にした「生涯活躍のまち(日本版CCRC)構想」が推進されています。全国では多くの自治体がその実現に向けて取り組んでいますが、いまだモデルとなるような事例は生まれていません。

 

なぜでしょうか?

 

今月は米国CCRCへの入居を決めたある女性の話を通して、その理由を考えてみたいと思います。

 

米国に住む78歳の女性Kさんは、CCRCの「自立型住宅」に移り住むために自宅を売却することにしました。夫は他界し、子供は別の州で暮らしている彼女にとって同じ世代の人たちと一緒に楽しめる趣味や学習、交流の場などが提供されるCCRCでの暮らしは魅力的でした。またケア(医療介護)が必要になった時のことを考えると、一人で大きな家に住むことは考えられませんでした。

 

CCRCでは、ケアが必要になっても慣れ親しんだコミュニティを離れることなく、支援型住宅、介護型住宅へと移り住むことができます。入居住民や職員と培ってきた友情や彼女のことをよく知る医療関係者の支援を維持することもできます。CCRC内にはレストランや喫茶店。売店などもありますから、生活に不便は全くありません。

 

こうして自立型住宅での生活を楽しんでいたKさんですが、入居から5年が過ぎたある日、転倒から骨折。病院で手術を受けました。

 

まだ自立はできなかったもののすぐに退院した彼女はCCRC内の介護型住宅で生活介助を受けながら同施設内にあるリハビリセンターで理学療法を受けました。

 

Kさんは集中的なリハビリを受けましたが、元の自立型住宅に戻れるまでの回復はできませんでした。それでも慣れ親しんだCCRC内で、車いすでも自立した生活ができる「支援型住宅」に移り住むことができました。

 

通常はこのようにケアの必要度が高くなると、そのたびに新しい施設を探して移り住む必要があります。しかしCCRCに入居したKさんにはその必要がありません。CCRCでは、介護の必要度に応じてさまざまなレベルのケアが移動のストレスなく提供され、Kさんの生活の質は今も維持され続けています。これからもKさんは、身体面や精神面でどのような変化が起きても親しい人たちと共に生きることができるのです。

 


 

費用と24時間介護へ対応する制度改革が必要


 

このような米国CCRCの安心の仕組みを我が国で実現していくためには6つの課題があります。
すなわち、
①理念の構築
②適切な入居費用のハードとソフトの開発
③要介護になったときの対応
④開発方法と経営方法の構築
⑤日米の意識と文化の違いへの対応
⑥時代に合わせた規則の制度改革
です。

 

日本版CCRCの実現では特に入居費用と、自立型住宅の方が要介護になったときの対応が、大きな障害となっています。

 

例えば自立型住宅(居室面積30㎡)18室。介護型住宅(居室面積13㎡)18室のCCRCをつくるとします。
自立型住宅の建築開発費用が1200万円であった場合、賃貸にすると家賃は月10万円。
入居期間が10年の場合、家賃の支払いは、1年間で120万円、10年間で1200万円が必要になります。

 

この1200万円が、もし米国のように権利金として認められれば(現在、日本の法律では認められていません)10年後の退去時には1200万円が相続者に返還され、格安な仕組みとなるわけです。

 

また入居者が要介護になった場合、介護型住宅を、24時間の介護・支援が包括料金で提供される「特定施設」として認可してもらえれば良いのですが、現在のようにケアプランをを作成しサービスを受ける形では、24時間の見守り支援体制はできません。

 

つまり日本版CCRCを構築していく上では費用の問題と24時間介護への対応に関する制度改革が必要といえます。誰しも最期まで自立した生活を望んでいます。これらの課題を解決し、日本の文化と制度に合った日本版CCRCの実現が望まれています。

 

本連載は今月で一旦終了しますが、近い将来、さまざまな成功モデルをこの誌面で紹介できることを期待したいと思います。