米国で普及している高齢者住宅「CCRC」の取り組みが日本でも始まり、超高齢社会における地方創生の施策として期待されています。しかし実現に向けては多くの課題があるようです。前号から引き続き、その課題についてみていきます。

 

基本コンセプトに地域包括ケアシステムの連携を採用


地方の人口減少に歯止めをかける地方創生の施策のひとつとして「生涯活躍のまち(日本版CCRC)構想」が、全国各地で始まっています。現在、263の地方自治体が推進意向を示し、その実現に取り組んでいます。

 

平成26年に国がスタートさせた日本版CCRC構想の、平成27年に策定された基本コンセプトは当初7つでしたが、2016年3月、5つに修正されました。(図1参照)。

 

修正内容のポイントは「地域包括ケアシステムとの連携」が採用されたことです。また以前は、移住者は東京圏からのシニアが中心と強調されていましたが、新しく「中高年の希望に応じた住み替えの支援」と表現され、県内や地域内からの住み替えも強調されました。つまり、当初は団塊世代が75歳となる2025年を見据えて、その数が東京圏に集中することを避ける意味合いが強かったものが修正された形となります。

 

 

終身ケアの仕組みを阻む法規制の壁


日本版CCRCの実現が望まれている中で、なかなか実現できない理由や、実現するための課題についてこれまでお話をしてきました。今回は、おそらく一番大きな課題である「入居時は健康だったシニアが、病に倒れた後」を考えていきたいと思います。

 

治療・リハビリを終えて退院できたとしても、もし障がいが残り、常時の介護や看護が必要になった場合、同じ居住区の中でどうやって対応していけばよいでしょうか。

 

米国のCCRCでは、まず自立型住まいを建設し、介護が必要なシニアが増えてきた段階で時期をずらして介護施設をつくる手順が一般的です。日本とは違い自由に介護施設を作ることができる米国では、入居したシニアを同じ場所で最期までケアしていく仕組み作りも可能です。もちろん施設自体は、国または州が定めた基準を満たす必要があります。

 

 

一方の日本では、例えば「サービス付き高齢者向け住宅」(自立型住まい)をつくり、健康なシニアに介護予防・自立支援プログラムを提供し、その後、もし介護や看護が必要になったとして、規制上の問題で、米国のように自由に隣接して特別養護老人ホームや介護付き有料老人ホームをつくることができません。

 

また、米国CCRCの介護施設の入所時間が平均8ヵ月であるのに対し、日本の特別養護老人ホームの入所期間は平均40か月と実に6倍になっています。この数字からは、米国では自立して暮らせる期間をできるだけ延ばし、寝たきりなど重介護の期間をできるだけ短くしていることがわかります。この点も日本版CCRCにおいて研究していく意義は大きいといえます(表参照)。

 

なお日本の場合は介護保険制度があり、介護が必要となったときは要介護度に応じて介護給付(約15万円~35万円)を受けられることが大きな利点です。

 

 

課題解決に必要なこと


では、日本版CCRCで介護が必要になった場合、どう対処していけばいいのか考えてみましょう。

 

重度な介護・看護が必要になったとき、24時間体制の見守り支援が必要ですが、ケアプラン(※)に今までの訪問介護や訪問看護を組み込んでも、すぐに介護給付の支給限度額を超えてしまい、24時間体制での支援はできません。

 

そこで注目されているのが「定期巡回、随時対応型訪問介護看護サービス」です。このサービスは、介護を必要とする高齢者が住み慣れた地域で生活できるように、地域包括ケアシステムの中核的な役割を担うと位置づけられています。しかし、例えば福岡県では推定で500事業所ほどあが必要であるのに対し、現在は33事業所しかなく、全国的にも整備が遅れています。

 

この24時間体制の定期巡回・随時対応型訪問介護サービスの活用を研究し、日本版CCRCに組み入れていくことが、課題解決につながるのではないでしょうか。

 

※ケアプラン・・・利用する介護サービスの種類や内容を定めた計画のこと。