米国で普及している高齢者住宅「CCRC」の取り組みが日本でも始まり、超高齢社会における地方創生の施策として期待されています。しかし実現に向けては多くの課題があります。日米の高齢者住宅に対する意識と文化の違いもその一つです。

 

自立はしているが、1人暮らしに不安を抱えるシニアが増加


最近、知人から、親世代の住まいや住まい方についてのご相談が多くなりました。

 

例えば「1人暮らしの母が心配になってきたので、安心できる高齢者住宅を探している」とか、「90歳を超えた父は自分の運転で買い物に行っているが、もし免許の更新ができなくなった場合、買い物に行けなくなるので便利な場所へ移らなけらばならない。どうしたら良いか」などです。

 

2つの問題に共通しているのは、「自立した方の住まい・住まい方」であることです。今は元気だから介護施設に入ることはできないが、どういった住まいに移ればよいのか?というご相談です。

 

わが国では、このような自立した高齢者への支援ニーズに応えられる住まいがほとんどないのが現状です。

 

介護型住まい(介護施設)は、介護保険制度が施工された2000年を契機に多くできましたが、自立した方向けの介護予防・自立支援プログラムがある自立型住まいはほとんどできておらず、自立型住まいの整備は緊急課題となっています。

 

米国で普及している自立型住まいを中心としたCCRC(高齢者健康コミュニティ)は、自立した段階から要支援、要介護、看取りまでその人らしく生きるための自立支援を軸にして、加齢とともに変化するニーズに応じて必要なサービスを提供するというもので、日本でもCCRCの実現が望まれています。

日本版CCRCの実現を阻む6つの課題


この連載では、日本版CCRCを実現していくための6つの課題として、
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①使命であるCCRCの理念を持つこと
②理念を実現するためのハードとソフトを構築すること
③介護費用負担の考え方・方法へ対応すること
④開発方法と経営方式を構築すること
⑤日米の意識と文化の違いを知り対応すること
⑥規則と制度を時代に合わせて改革すること
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を提案してきました。

 

そして6つの課題のうち、①~③をこれまでお話してきました。
今月は、④と⑤の課題について、お伝えしたいと思います。

 

まず、高齢者が人生の最終的な住まいを決定するにあたり、移り住むCCRCの経営の安定性はきわめて重要です。
米国CCRCでは、事業の安定をはかるために、事業主体と開発事業者と運営事業者を分けています。

 

さらにCCRCを経営する際、NPO法人であれば、税制面で無税となる優遇処置があります。
ちなみに米国におけるNPO法人は、日本での社会福祉法人のような法人格で信頼性が高く、さらに柔軟な経営ができると言われています。
このため米国CCRCの事業主体は、ほとんどがNPO法人となっています。

 

このNPO法人は入居者を中心とする組織で、入居者の中新評議員が選出されるため、CCRCの経営には入居者の意見が反映されます。
また経営アドバイスのために、利害関係のない役員を選定指名します。
たとえば会計士、弁護士、元経営者などです。

 

開発事業者は、開発やマーケティングなどに専念し、CCRCの入居がほぼ満室になったところで事業主体であるNPO法人に土地と建物を売却します。

 

運営については、マネジメント専門の運営事業者が入札などにより選定され、入居者ニーズや満足度評価などのフィードバックを行います。
通常、運営事業者は2年契約とし、入居者から不満が出たり、満足度が低かったりすれば、次の入札で新しいサービス運営会社に切り替えることができます。

 

このように米国CCRCでは、入居者の資産と安全を守る仕組みが構築されています。

 

以上を踏まえて、日本版CCRCと既存の一般的な有料老人ホームとの経営・運営方式の違いを表1にまとめました。

 

次に、高齢者住宅に対する日米の意識と文化などの違いについて表2に整理しました。

 

すなわち4つの視点、

 

①自立型住まいに対する意識。
②入居費用の調達方法。
③介護費用の負担方法
④入居費用捻出の中心となる自宅の転売流通

 

について比較検討しました。

 

日本版CCRCを実現するためには、これらの意識と文化の違いについてマーケティングを行う必要があります。

 

次回は、日本版CCRCを実現していくにあたっての法規制や制度改革についての話をして、この連載を締めくくりたいと思います。