地方創生に向けた政府の取り組みのなかで、シニアの新しい終の住処「日本版CCRC/高齢者健康コミュニティ」への注目が高まっています。今回は年齢に応じて2段階で移住するCCRCについて紹介します。

 

生涯活躍できるまち「日本版CCRC」を


2015年8月25日、政府の有識者会議は「日本版CCRC(高齢者健康コミュニティ)」の名称を、「生涯活躍のまち」と定めました。

 

「生涯活躍のまち」構想とは、「東京圏をはじめとする地域の高齢者が、希望に応じて地方や〝まちなか〟に移り住み、地域住民や多世代と交流しながら、健康でアクティブな生活をおくり、必要に応じて医療・介護を受けることができるような地域づくり」を目指すものであるとし、地方移住への流れを推進することがおもな意義となっています。

 

政府の方針は、東京圏の50・60代に地方へ移住してもらおうというものですが、50・60代の方々と、医療介護ニーズの高まる75歳以上の方々の移住への希望は異なります。それぞれの希望に合った移住の仕組みが必要です。

 

日本がCCRCのモデルとしている米国には、移住のための2種類の高齢者健康コミュニティがあります。すなわち55歳以上から移住し、退職後は好きなことをして人生を楽しむ「アクティブ・リタイアメント・コミュニティ(Active Adult Retirement Community)」以下(ARC)と、今まで紹介してきた「コンティニューイング・ケア・リタイアメント・コミュニティ(CCRC)」です。ARCとCCRCの主な違いを【表1】に示します。

 

表1_ARCとCCRCの違い

 

ARCは、「55+コミュニティ」とも呼ばれ、1960年に不動産会社のデル・ウェブがアリゾナ州の砂漠の真ん中に55歳以上の高齢者が主体となって住む人為的な町「サンシティ」を開発したことが始まりです。

 

ARCは戸建ての住宅群に、ゴルフ場、テニス場、ボーリング場、スポーツ公園のほか、病院、教会、図書館、ショッピングセンターなどがあり、1つの町としての機能が整えられています。ここではそれらの施設で働く若者に交じって、住んでいる高齢者達も働いています。近隣のアリゾナ州立大学では講義を受講でき、生涯学ぶ環境も整っています。

 

デル・ウェブはこうした町を全米各地に8ヵ所建設しました。ARCには生活支援や医療・介護サービスはなく、不動産中心の事業といえるでしょう。

 

現在、ARCは全米に1332ヵ所あります。
【表2】に全米でARCの多い州を10位まで整理しました。
一番はフロリダ州で253ヵ所、その中でもっとも規模の大きいARCは5万6千268の戸建てがある「The Villages」 (1978年から開発)です。全米には、5万世帯以上の巨大なものから50世帯程度の小さなものまで多様なARCがあり、平均規模は約600世帯です。

 

表2_米国のARCの多い州(上位10州)

 

【図1】に示すように、米国のCCRCへの地方移住は2段階あります。まずは50代後半で自宅からARCに移り住み、ゴルフ・釣り・山登りなどの趣味や娯楽、学習を楽しみながら、夫婦で人生を謳歌します。そして、加齢と共に配偶者が亡くなったり虚弱になったりして生活支援や介護が必要になった80代前後で、CCRCに移住します。

 

図1_米国における2段階の移住

 

一方の我が国では、「自立型住まい」というコンセプトや意識がなく、自立型住まいがほとんど整備されていない現状です。そのような中で、東京圏の高齢化の受け皿として「生涯活躍のまち(日本版CCRC)」 」構想が推進されており、50代、60代、80代の地方移住が課題となっています。

 

冒頭でも述べたように50代と80代では移住の目的や希望が異なっており、日本版CCRCを開発構築していくなかでは、米国のCCRCとともにARCも研究、参考にしていく必要があると考えます。

 

私どもNPO人では、以前に本誌で紹介しましたように、9月15日発で「第1回日本版CCRC研究ツアー」を実施し、ワシントンDC周辺のCCRCとARCを視察してまいりました。それらについては、また本紙で紹介したいと思います。

 

※雑誌ゴールデンライフへの執筆記事から。