日本でも、米国で普及している高齢者住宅「CCRC」の取り組みが始まり、超高齢化社会における地方創生の施策として期待されています。しかし、実現に向けては多くの課題があるようです。前号から引き続き、その課題についてみていきます。

 

「理念」が成功への鍵


日本版CCRCを成功させるためにはまず、「理念」を持つことが重要であると、前回お話ししました。どんな組織であれ、あらゆる方針や行動の前提として確固たる「理念」を持ち、その理念を誠実に守ることが成功を導く最も大切な要素と言えます。

 

今回は、CCRCの理念である「高齢者ひとり一人がいきいきと安心して暮らし、最後まで人生の継続性を保つ」ことを実現するためのハードとソフトを、どのように構築していけばいいのか。という課題について考えてみます。

 

移住対象年齢は60代・70代が中心


日本版CCRCのハードとソフトを構築して行く場合、まず入居者の視点に立つことが必要不可欠です。国が提示した日本版CCRC構想の中で、CCRCの入居者像はどのように捉えられているのか、「従来の高齢者施設」「生涯活躍のまち(日本版CCRC)構想」「米国のCCRC」の3つを比較してみます(表参照)。

従来の高齢者施設、日本版CCRC、米国CCRCを比較してみる

 

従来の高齢者施設の場合、入居の契機が要介護になってからの平均85歳であるのに対し、日本版CCRCは対象年齢を50代からとし、健康時から移住するとしています。

 

一方の米国CCRCの入居年齢は平均80歳で、80歳~90歳までの人生の終盤を趣味活動や社会活動を中心に、地域と交流しながら生き生きと楽しく暮らすためのハードとソフトがデザインされています。

 

日本版CCRCを構築していく上での問題は移住対象年齢を50代からとしている点ではないでしょうか。理由としては50代の移住目的とリタイアした60代70代シニアの移住目的は根本的に異なるからです。すなわち50代の移住目的は、就業によるキャリア形成と子育てが中心です。したがって50代のの移住を促進するためには、移住先において東京での仕事を超える魅力ある仕事と待遇が必要となり、高いハードルとなっています。

 

一方リタイアしたシニアには、移住先での生きがいや居場所といった役割が必要です。そして、もし介護が必要になったた場合は、看取りまで安心して暮らせる医療・介護体制があるのかどうかそれが移住の主な条件になるでしょう。

 

以上のように50代と60代・70代の移住目的が異なるコミュニティを同時に構築していくことは、一般的には難しいアプローチではないかと考えます。

 

図にコミュニティのつくり方について、2つのモデルを示します。モデルAは、まず60代・70代のコミュニティCCRCをつくり、その後CCRCを支える50代の仕事(介護、医療、IT等)が生まれ、50代の移住が促進されるモデルです。

 

モデルBは、50代の就業・子育てができるコミュニティと60代・70代のコミュニティを同時につくるモデルです。

 

日本版CCRCに取り組んでいる自治体は、高齢化が加速し、人口が大きく減少しつつある自治体が多くなっています。

 

このような場合はまず、60代・70代シニアの生きがいや安心を中心とし、地域包括ケアと連携した日本版CCRCの構築を優先する方が現実的であると考えます。そして、日本版CCRCを支えるための予防や医療、介護、ITなどの新しい仕事が生まれたところで、それらに取り組みたい50代の人たちが移住してくるというモデルAが、実現性が高いのではないかと思います。

 

日本版CCRC実現のための2つのモデル

 

移住したいと思える魅力的なコミュニティを


人が移住を考えるとき、移住先に自分の人生にとってどんな価値があるのかが重要です。例えばそこが郷里であったり、以前慣れ親しんだ職場の地域であったり、生きがいや安心を与える魅力的なまちであれば、自然に移住が起こるのではないでしょうか。重要なことは、いかに魅力的なコミュニティをつくるかです。

 

次回は、理念を実現する自立型住まいのデザインについて、お話ししたいと思います。