今回は、私が米国留学時代に「CCRC/高齢者健康コミュニティ」に関心を持つきっかけとなったエリクソンリビング社との出会いについてのお話です。

 

米国を代表するCCRCの生みの親、ジョン・エリクソン氏との出会い


アメリカの高齢者住宅は、特に後期高齢者のニーズに応えるよう様々に発展しています。終の住処の理想モデルとしてアメリカで普及している「CCRC (Continuing Care Retirement Community/高齢者健康コミュニティ)」もその1つです。私がCCRCに関心を持つきっかけとなったのは、表1の9番目「エリクソンリビング社」との出会いでした。1991年から米国に留学し、米国の優れた高齢者ケアシステムを研究していた私は、同級生からエリクソンリビング社のCCRCを紹介されました。

 

表1

 

エリクソンリビング社は、1981年ジョン・エリクソン氏によって創設された米国を代表するCCRC開発・運営会社です。エリクソン氏はそれまで、75歳以下の元気な高齢者夫婦の戸 建て住宅の開発をしていましたが、75歳を超えると疾病や障害をもったり、夫婦のどちらかが先に亡くなったりといった事例を経験するようになりました。その結果、かれらが医療や介護の不安なく暮らせる高齢者住宅が、ほとんどないことに気づいたそうです。

 

そんな折、メリーランド州ボルチモアの大学が廃校によって売りにでていることを知った彼は、瞬時に「中間層が入手できるCCRCを作ろう」と考えると、エリクソンシニアリビング 第一号となる「チャールズタウン・リタイアメントコミュニティCCRC」の開発に着手しました。

 

入居一時金返還システムと 予防・医療・介護サービスシステム


彼はまず、大学校舎を改修して200室の自立型住まいをつくり、満室になった時点で、さらに200室の改修を行いました。その後、居待機者500名以上のために500室の自立型住まいと支援型住まい、介護型住まいを新築し、最終的には医療センター、リハビリセンター、問介護・看護ステーションをもつ、医療や介護の心配がないCCRCを創り上げました。このCCRCが人気を集めた理由は、多くの中間層が入居できる入居一時金100%返還システムと継続したケアを提供するための充実した予防・医療・介護システムを構築したことでした。

 

廃校を増築して完成したチャールズタウンCCRC

 

入居・生活費用は一時金と月利用料金で賄われています。チャーチルタウンCCRCの開発費用は一時金で賄われていますが、その一時金は入居者が死亡などにより退去し、次の方が入 居したときに退去者の親族に返還される仕組みになっています。コミュニティ内 には専属の医師や医療チームがあり、在宅ケア体制、24時間安心・安全な環境を提供する保安体 制がとられています。チャールズタウンのCCRCの高齢者が入院した場合、平均在院日数、寝たきりになる確率、医療費ともに米国全体の平均値よりも低いことがわかっています。

 

表2

 

チャールズタウンCCRCの医療における効果

 

2013年、日本でも初めての CCRCが和光市に誕生


帰国後、CCRCの啓蒙・普及を推進してき た私は、2005年にCCRC見学の研修ツ アーを開催しました。このツアーには、日本で初めてCCRC高齢者健康コミュニティを創った(株)東日本福祉経営サービスの代表取締役五十嵐豊氏も参加され、エリクソン氏とも実際に会って話していました。CCRCに感銘を受 けた五十嵐氏は「いつか日本でも日本型CCRCを創りたい」と考え、2013年、日本で初めてとなるCCRC(高齢者健康コミュニティを和光市に誕生させたのです。
五十嵐氏のこの試みが、介護予防を重視した「自立型住まい」のモデルとなり、多くの高齢者が日本版CCRCで豊かな人生を過ごせるようになることを願います。

 

ジョンエリクソン氏(中)と五十嵐氏(右)と著者

 

※雑誌ゴールデンライフへの執筆記事から。