アメリカで普及している終の住処「CCRC/高齢者健康コミュニティ」は、なぜこんなにもアメリカのシニア層に受け入れられているのでしょうか。それは「入居一時金の返還システム」による経済的負担の軽減にありました。

 

いよいよ日本でもはじまったCCRCの施策


アメリカの高齢者住宅は、特に後期高齢者のニーズに応えるよう様々に発展しています。終の住処の理想モデルとしてアメリカで普及している CCRC(Continuing Care Retirement Community/高齢者健康コミュニティ) 」もその一つです。

 

私がCCRCを知ったのは米国留学中の1992年で、同級生から紹介されたのが、メリーランド州のCCRC「チャールズタウンCHARLESTOWN) 」でした。チャールズタウンはジョン・エリクソン氏によって、廃校になった大学の校舎を改築・増新築し10年かけて完成したもので、入居一時金の100%返還システムを米国で普及させたCCRCのモデルにもなっています。

 

当時、CCRCの入居一時金100%返還システムの素晴らしい仕組みを知って、日本でもこのような仕組みができればと考えたのが、私が日本版CCRCの普及活動に携わってきたきっかけです。帰国後の1993年から日本での普及に取り組んできましたが、当時は介護施設の普及が国の緊急テーマであり、自立型住まいを中心としたCCRCに関心を持ってくれる人はほとんどいませんでした。

 

それから23年。人口減少、首都圏の急速な高齢化、社会保障資源の有効活用、介護予防が問題になってきた中、政府は2014年『まち・ひと・しごと創生「総合戦略」』の施策に、 「日本版CCRCの検討、普及」をとりあげました。米国では普及しているCCRCですが、日本にはありません。国の政策をもとに、日本でいかにして創生していけばいいかを考えていく必要があります。本ブログでは、これまでCCRCの3つの特色について説明してきました。すなわち、

 

①継続した人生・生活ケアの提供の理念
②質の高いサービスを提供する人材マネジメント
③NPOを活用した安定経営の仕組み

 

です。日本でCCRCを普及していくためには、今回お話しする4つめの特色「入居一時金返還システムによる経済的負担の低減」を実現していくことが必要だと考えています。

 

『入居一時金100%返還システム』とは


米国のCCRCでは、自分の持ち家を売却しそれを資金にCCRCの居室を購入します。そして退去時(死亡か他の施設へ転居等)に、その居室が次の入居者に売られ、入居時の一時金が返還されます(返還額は100%~50%とCCRCによって異なります。) 表1はエリクソンの入居一時金と月額利用料金(例)です。エリクソンでは多くが100%返還で、最近できたCCRCは90%返還となっています。「入居一時金」は部屋に住む権利(家賃)で、「利用料金」は生活に必要なサービス・サポートの費用です。

 

日本人にとって一番大きな資産は持ち家です。30年も住宅ローンを支払ってきた対価が自分の家です。欧米では、多くの場合、持ち家が買ったときと変わらない価格か、それ以上で売却され、資産運用のひとつとなっています。そして、中古住宅の流通が進んでいます。

 

表2に日本アメリカ、イギリスの新築住宅と中古住宅の年間販売戸数、中古住宅の販売戸数が新築住宅の何%あるかを示しました。

 

エリクソンCCRの一時金と月利用料。および、日本と欧米の中古住宅の市場規模

 

日本でも近年は、中古住宅をリノベーションして販売する文化が生まれつつあります。日本でも欧米と同じように、例えば図に示すように2000万円で購入したCCRCの居室が、退去時に次の方に販売され、その80%の1600万円が親族に返還される仕組みが普及することを願います。そして多くの高齢者がCCRCに入居し、人生の最終ステージを豊かに愉快に過ごせる日がくるよう、これからも普及活動に取り組んでまいります。

 

一時金返還の仕組み

 

※雑誌ゴールデンライフへの執筆記事から。