米国で普及している高齢者住宅「CCRC」の取り組みは、日本でも始まっています。米国CCRCツアー報告第9回目となる今回は、米・エリクソン社が運営する都市郊外型CCRCを紹介します。

 

政策実現にはイノベーションが必要


先日、消費税増税の延期が発表されました。

 

主な理由は、増税による個人消費停滞への懸念ですが、これによって年間4兆円近くの税収入が見込めなくなりました。

 

このため、社会保障充実への道筋はさらに険しい状況となっています。

 

我が国は団塊の世代が75歳になる2025年を目標に「地域包括ケアシステム」の実現を目指しており、さらに昨年6月には2035年を目標に「保健医療35」が提言されました。これは予防・検診を中心に、安心、満足、納得が得られる持続可能な保健医療システムの構築を目指すものです。

 

これら政策の実現に向けては、イノベーションが求められています。P・ドラッガーはイノベーションについて「新しい価値、満足を生み出すこと」と述べています。そこで、今、新しい高齢者への社会保障対策として注目されているのが「日本版CCRC」です。

 

都市郊外型のグリーンスプリングCCRC


私がCCRCの研究を始めたのは、CCRCの先駆けとも言えるチャールズタウンCCRCを開発した、ジョン・エリクソン氏との出会いがきっかけです。

 

現在、エリクソン社が管理・運営するCCRCは全米に19カ所あり、そこでは24,000人以上のシニアが活き活きと暮らしています。

 

研究ツアーでは3つのエリクソンCCRCを視察しました(表参照)。
その中からエリクソン社の新型モデルとなる「グリーンスプリングCCRC」について紹介します。
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CCRCは立地条件によって「都市型」と、最も多い「都市郊外型」と、「リゾート型」に分けられます。グリーンスプリングはヴァージニア州で開発された都市郊外型のCCRCです。

 

ここには「自立型住まい」が1,409室。「支援型住まい」が100室。「介護型住まい(スキルド・ナーシング・ケア)」が180室あります。

 

ここで生活するには「入居一時金」と「月々の利用料金」を支払います。入居一時金は居室の利用権となり、退去時に90%が返還されます。

 

月々の料金はヘルスセンター、フィットネスセンター、プールなどのサービス料金に加え、税金、食事代、24時間の非常時対応、インターネット、電話料金など、生活に必要なあらゆる費用が含まれています。

 

例えば、約50㎡の居室の場合、入居一時金1,540万円、月利用料金は18万円となります。

 

しかし地域包括ケアシステムは、目標達成年度である2025年まであと9年となり、構想が進行しないジレンマがあります。

 

生活自立と生きる喜びを支援


自立型住まいは3つの区画に分かれ、中心となるクラブハウスには5つのレストランがあり、居住者の交流の場となっています。ここでは学習、社会貢献、趣味活動など好きなことをして過ごします。

 

支援型住まいと介護型住まいはヘルスケアセンターに併設されており、これらは複合施設となっています。高齢者医療専門医が現場に終日常駐し、ナースプラクティショナー(※1)やセラピストが対応し、もし日中に緊急事態が生じても医師が数分で駆けつけます。夜は、週末はメディカルセンターの医師がオンコール(※2)で対応します。

 

さらに短期リハビリテーション施設が44室併設されており、もし急病で入院したとしても早期に退院してリハビリが受けられる利点は大きなものです。

 

この複合施設では理学、言語、作業療法、熟練した看護サービス、長期看護ケアを受けることができるので、移動の必要はありません。

 

メモリケア(認知症対応)では、居住者の自立・尊厳・生きる喜びを支援するため、経歴や嗜好についての情報を活用しています。そしてプログラム化された活動や行事、日常の交流を通して居住者が前向きに生活出来るアイデアや経験を探し、日々の生活を支援しています。

 

米国にはグリーンスプリングのようなCCRCが約2,000ヶ所あり、80万人の高齢者が暮らしています。一方、日本政府に取り上げられてから2年近くが経過する「日本版CCRC」のイノベーションが広がらないのはなぜなのか?

 

生活習慣や文化、制度の違いなのか?またはマーケティングやマネイジメントの問題なのか?米国との差はなんなのか?

 

どうすれば日本版CCRCが実現するのかを、これまで20回にわたる連載の中で折々触れてきましたが、次回はエリクソン社の原点であるチャールズタウンCCRCをもとに、どうすれば日本でイノベーションが起こせるのかについて総括したいと思います。
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※1 アメリカなどで導入されている上級の看護職のこと。特定看護師とも呼ばれ、一定レベルの診断や治療を行うことが許されている。
※2 呼び出された場合、いつでも対応できるように待機していること。