アメリカで普及している終の住処「CCRC/高齢者健康コミュニティ」は、なぜこんなにもアメリカのシニア層に受け入れられているのでしょうか。それは、CCRCの理念に基づいた人材育成に秘密がありました。

 

急病になったときなどの フォローも万全


アメリカの高齢者住宅は、特に後期高齢者のニーズに応えるよう様々に発展しています。終の住処の理想モデルとしてアメリカで普及しているCCRC (Continuing Care Retirement Community/高齢者健康コミュニティ)」もその一つです。

 

CCRCでは、高齢者の加齢と共に変化するニーズに応じて、様々なサービスが提供されています。その質の高いサービスは、それぞれのCCRCの理念と価値観による人材育成マネジメントによって支えられています。

 

全米には、今およそ2000カ所のCCRCがあり、独自の理念と価値観に基づいて運営され質の高いサービスが提供されています。 優れた人材育成マネジメントを行っていくには、まず優秀な人材を育成する仕組みが不可欠です。

 

人材育成の重要性については、多くの人 が言及していますが、マネジメントの父といわ れるピーター・ドラッカー氏は、マネジメントがもつ3つの役割の中で、「仕事を通じて働く人たちを生かす」ことを強調しています。そして「現代社会においては、組織こそ、一人ひとりの人間にとって、生活の糧、社会的な地位、コミュニティとの絆を手にし、自己実現を図る手段です。当然、働く人を生かすことが重要な意味を持つ」と述べ、組織における人材育成の重要性を述べています。

 

サービス業は一般の製造業とは異なり、生産現場が一定の工場等の場所ではなく、顧客と従業員が接する点が現場となり、そこでの従業員の対応の質が、顧客満足度に決定的に影響を与えます。また従業員のサービス提供の質には、従業員の満足度が反映されますので、満足度の高い従業員は、顧客に提供するサービスの質を向上しようという動機付けが働きます。その結果として、顧客満足度もさらに向上するという連鎖が期待されます。

 

このマネジメント手法は多くのサービス業で採用され、効果をあげています。ホテル業界では、クレドで有名なリッツ・ カールトンホテル、医療分野では米国のメイヨークリニックなど多くの医療機関でも活用されています。このマネジメント手法である「サービスプロフィットチェーン」を示します(図1)。

 

サービスプロフィットサイクルの図

 

理念に基づいて 価値観を共有する経営


したがってサービス業において、その品質を決めるのは従業員の満足度に依存するといっても過言ではないでしょう。逆に、従業員が満足して仕事をしない限り、質の高いサービスは提供できませんし、顧客は心から満足しないことになります。

 

このため、質の高いサービスを提供するためには、従業員が満足できるようなやりがい、意欲、職場環境をつくり、従業員一人ひとりが成長できる人材育成のバックアッププログラムが必要です。その根本となるのが、理念と価値観を共有していくことだと考えます。

 

前号で紹介したエリクソンCCRCの理念は、「人生を祝福するコミュニティをつくるために衆知を集める」であり、その価値観は、「思いやり、親密さ、誇り、チームワーク、リーダーシップ、プロ意識、気づき、多様性、学び、誠実さ」です。そして、それぞれの価値観に具体的な内容があり、例えば思いやりについては、「常に、入居者、家族、訪問者、そして同僚に敬意を払います」「常に入居者に対し、寛容、親切、やかであります」ほか、5項目があります。(図2)

 

このようにCCRCでは、人材教育・育成を第一の重要課題とし、理念に基づき、価値観を 共有する経営を行っています。

 

エリクソンCCRCの概念図

 

※雑誌ゴールデンライフへの執筆記事から。